無指向性2wayバックロードホーンスピーカーの自作     2017/03/06掲載

 別掲記事でご紹介しております「無指向性スピーカーキャビネット」の製作後、リファランススピーカーとして購入したJBLのトールボーイに負けない低音を出すことのできる無指向性スピーカーを作りたくなりました。
 豊かな低音を出すのであれば、バックロードホーンが向いているということを過去のスピーカーエンクロージャ自作経験から知っておりましたので、これに豊かな高音も欲張り、ツイーターを加えた構成の無指向性スピーカーを目指すことになりました。
 この記事は「無指向性スピーカーキャビネット」の製作記事を先にお読みになっていることを前提に書かれておりますので、上記の記事をまだ読まれていない方は、先にそちらをお読みください。
 なお、バックロードホーンから出てくる低音は無指向性ではありませんが、低音に関しては、指向性をあまり気にする必要はありません。5.1チャンネルのサラウンド環境ではサブウーファーの設置場所にはかなりの自由度があります。

スピーカーユニットの選択

 「無指向性2wayバックロードホーンスピーカー」などという得体の知れないスピーカーはいままで聞いたことがありません。うまくいくかどうか、自信などありませんでしたので、お遊び感覚で行くことにして、高価なユニットを最初から使うつもりはありませんでした。
 選んだユニットはフォステクスのウーファーPW80K(定価\1,600)とツイーターPT20K(定価\2,000)です。しかし、ユニットとして購入したのではなく、P802-Sというスピーカーシステム(ペアで定価\10,000、買値\8,717)から外して使うことにしました。なぜこのようなことを考えたのかというと、同じユニットを使ってバスレフ方式とバックロードホーン方式で音がどのように変わるか試したかったからです。また、スピーカーネットワークやターミナルも流用できて、全体として購入費用が若干節約できるとも考えました。

ウーファーとツイーターの配置

 ウーファーとツイーターの配置をどうするか、少々悩みました。最初に製作した無指向性スピーカーでは、後に追加したツイーターを上に重ねたのですが、今回は横に並べることにしました。このような配置をするとキャビネットの断面が長方形になりますので、バックロードホーンを形成するのに適していると判断しました。ただ、円錐形のデフューザーを横に並べる関係で、P802-Sと比べるとウーファーとツイーターの間隔が大きくなり、音の定位という点で好ましくあません。しかし、音の定位よりも音の広がりを重視するスピーカーですので、あまり気にしませんでした。

バックロードホーンの設計

 私はバックロードホーンの設計方法を全く知りませんので、市販されているものの内部形状や公開されている設計図を参考に、見よう見まねで適当に設計しました。円錐形のデフューザーを2つ並べますので、キャビネットの断面は2:1の比率になります。スピーカー室の容積とスリットの幅をどうすれば良いのか分からなかったので、「エイ、ヤ」と決めてしまいました。設計後、ホーンの長さに沿って断面積が滑らかに変化していることだけは確認いたしました。

エンクロージャーの材質

 エンクロージャーの材質は合板ではなく、例によってMDFとしましたが、ホーンを構成する内部パーツには、今までの木工作で出た合板等の残材を流用しました。

エンクロージャーの製作

 密閉型やバスレフ型のエンクロージャーと比較し、バックロードホーンのエンクロージャーは特に精密な木材加工が求められます。2枚の測板の間に多くのパーツが入り、その幅が同じでないと組立がうまく行かないからです。ホーンの音道形状をなるべく滑らかにするため、45度の傾斜切断をするパーツもあります。造作用丸鋸とスライド丸鋸を駆使してパーツ作りの精確性に気を配りました。

デフューザーの製作

 ウーファーおよびツイーターのそれぞれに専用のモルタル製円錐を取り付けております。横に並べましたので、円錐形同士の干渉が気になりますが、お遊び感覚ですのでこれで良しと割り切りました。モルタル製円錐の製作は三度目となりますので、その出来栄えは最初のものに比べ、かなり洗練されてきました。最初はモルタルの中に気泡が残って、表面に穴ができてしまいましたが、モルタルを流し込んだ後、十分に振動させて気泡を取り除きました。また、円錐の先端を尖らす術も覚えました。

第1回視聴(P802-Sとの比較試聴)

 スプレーガンできれいに塗装した後、1セットだけユニットを外してバックロードホーンキャビネットに移設し、P802-Sと比較試聴してみました。
 採用したスピーカーユニットは出力音圧レベルがとても低く(ウーファー:83dB/w、ツイーター:84dB/w)、スピーカー切替機でP802-Sを聞くと、他のスピーカーよりかなり小さな音でしか鳴りません。アンプのボリュームをかなり上げる必要があったのですが、バックロードホーンに移設したものは、他のスピーカーと遜色ない音量となりました。その低音はP802-Sとは比べ物にならず、これが口径80mmのユニットから出ている低音とは信じられないくらいです。音質は別にして、低音の音量はJBLのスピーカーに負けないくらいで、劇的に変化しました。しか~し、残念ながら高音が聞こえません。考えてみれば当然至極なのですが、P802-Sで高音と低音のバランスが取れていたものを、バックロードホーンで低音だけ増強したのですから。製作する前にこのようなことに思いが至らなかったのは恥ずかしい限りです。

第2回視聴

 最初に製作した無指向性スピーカーに追加したツイーター(FT207D)の出力音圧レベルが90dB/Wでしたので、これに変更してみました。確かに高音が聞こえるようになってきましたが、まだまだ低音に負けております。
 もっと出力音圧レベルの高いツイーターを探すことにしました。100dB/Wを超えるツイーターを探してみましたが、どれもホーン型のものばかりでサイズが大きく、交換に適しません。秋葉原のコイズミ無線のWEBサイトで、ドーム型ツイーターの中で最も出力音圧レベルの高いものを探したところ、monacor DT-74/8を見つけました。出力音圧レベルが98dB/Wとなっており、高価なツイーターではありませんので(定価\2,520)、安価なPW80Kと組み合わせて良さそうです。早速秋葉原に出かけて相談に乗ってもらいました。このショップの店員はドーム型ツイーターでありながら、この出力音圧レベルに疑問を感じていたようで、アンプに接続してFT207Dと聞き比べてみようということになりました。比較したところ、FT207Dよりも大きな音で鳴っていることは分かりました。これで低音に負けないか確信は持てませんでしたが、高価なツイーターではありませんので、購入してきました。

第3回視聴

 PT20Kからmonacor DT-74/8への交換ですが、取り付ける穴の直径が異なりますので、新たにバッフル板をかませました。いよいよ音出しです。
 聞いての第一印象ですが、高音がかなり出てくるようにはなったものの、まだ十分ではないというものでした。これはリファランススピーカーのJBLとの比較です。
 解決策としてアッテネーターを付けることが思い浮かびますが、普通はツイーター側に入れるものをウーファー側に入れるなどということは聞いたことがありません。
 もう一つの解決策としてウーファーとツイーターを別のアンプで駆動するマルチチャンネル(バイアンプ)接続です。低音の増強が音出しをしてみないとわからないバックロードホーンを2wayで作るなら、このマルチチャンネル方式が一番良いと思いますが、接着剤で固めてしまったこのキャビネットを改造する気が起きません。
 無指向性スピーカーとしての特性は充分感じられます。JBLのスピーカーでは左右のスピーカーの間に定位していた音、言い換えれば左右のスピーカーの間に閉じ込められていた音が解き放たれます。広い部屋の真ん中に置いた場合は分かりませんが、部屋の角に置いて音が壁に反射するような場所では、この音の広がりを特に実感できます。
 音の定位について疑問を感じていることがあります。スタジオ録音の場合が典型ですが、各楽器に専用のマイクを立てて録音し(ドラムの場合は各ドラムやシンバル専用に複数のマイクを使います)、後にミキサーが各マイクの録音トラックを左右に適当な比率で振り分けて、音の定位を実現していると思います。これは多分に人工的な音作りになっており、私の好きなライブハウスのようなところでは、楽器にもよりますが、壁からの反射音も多く、このような明確な音の定位は感じません。
 家内にも試聴してもらって感想を聞きました。JBLのスピーカーと比べると音が少し籠って聞こえるとのことです。私は高音が聞こえ辛いので、どのスピーカーの音もこの傾向にあるのですが、確かにJBLに比べるとより籠っているように感じました。確たる根拠はないのですが、P802-Sのスピーカーネットワークを流用していましたので、もっとシンプルにコンデンサーのみに変更してみましたところ、わずかですが改善されたように感じます。またバックロードホーンの形状(曲がりが多い)や長さが原因かもしれません。バックロードホーン用のユニットではないウーファーを使っているのが原因かもしれません。

次なる挑戦

 この「無指向性2wayバックロードホーンスピーカー」では低音の増強には成功したものの、私の期待に十分に応えてくれたとは言い難いので、バックロードホーン用のフルレンジユニット使い、もう少しホーン長を短くして曲がりの少ない無指向性バックロードホーンスピーカーを作ってみたくなりました。実際に製作し、興味深いことが分かってきましたので、これも別掲記事でご紹介いたします。

 なお、上でご紹介した写真以外のものを含め、拡大写真はこちらでご覧いただけます。