米国公認会計士受験体験記 学習編        (2011/07/04掲載)

 2010年7月から2011年4月にかけて、USCPA(米国公認会計士)の試験を受け、幸いにして全科目の合格を果たせました。

 2011年に試験内容が変更となりましたので、その端境期に受験したことになります。試験内容が変更になる前の2010年中に全科目の合格を目指しましたので、準備が十分整わず、見切り発車で受験した経緯があり、それゆえにどの程度学習すればどの程度の結果(スコア)が得られるのか、おぼろげながら理解できた気がします。

 資格は合格してしまえば、満点で合格しようとギリギリで合格しようと、同じ「合格」です。ある求人サイトで 「85以上のスコアでUSCPA試験の全科目に合格していること」 という記述を1度だけ見たことがありますが、これは例外で、合格後にスコアを尋ねられることは通常ありません。であるなら一日も早く合格し、資格保有者ならではの職業に就いて、実践での経験をより多く積むことにより実力を蓄えましょう。世間ではその方が評価されると思います。

 自分の退路を断つため、2010年7月の最初の受験直後からこの体験記を公開し始めましたが、その後記述量が多くなってしまいましたので、「手続・受験編」と「受験ツアー編」に分割致しました。この「手続・受験編」と「受験ツアー編」は、2011年7月4日現在、おかげさまで1,300ページビューを越えるアクセスをいただいております。「学習篇」もご紹介しようと考えておりましたが、自分のとった学習方法がこの記事をご覧になる受験生のご参考になるのか分かりませんでしたので、全科目合格できたらアップロードすることに決めておりました。

 国際会計基準が日本、米国を含め世界各国で採用されようとしておりますので、世界共通語の英語で受験する米国公認会計士試験はますます注目を集め、2011年8月からは日本国内で受験が可能になりますので、今後さらに多くのUSCPA挑戦者が出てくると感じます。これからUSCPAを目指す方々、あるいは学習を開始したものの思ったような成果が得られずに悩まれている受験生に、一日でも早く合格するための「何らかのヒントになれば」と考え、私の取った学習法およびその成果(スコア結果)を包み隠さず、関連付けてまとめてみました。私はコンサルタントや監査人として仕事をすることが多く、不合格となったときのスコアまで広く世間に知れ渡ることに少し躊躇を覚えましたが(FAR/BEC:受験1回、REG/AUD:受験2回)、より多くの方がUSCPAに挑戦・合格され、日本に閉じ籠らずに世界で活躍されることを期待して、あえて公開することにいたしました。

 ここに記述する学習方法はあくまで私のとったものであり、人によってはもっと別のアプローチの方がより効果的である場合もあるかと思いますので、あくまで一受験生の例とお考えください。

受験の動機

 私は数年前からリスク管理/内部統制構築・評価支援の仕事をしておりますが、この仕事を始めるにあたって当初読んだ参考書に、関連資格が3つ紹介されておりました。紹介されていたのは公認情報システム監査人(CISA)、公認内部監査人(CIA)、公認不正検査士(CFE)という米国の資格でした。仕事に関連する資格は積極的に受験するのが私のポリシーですので、内部統制の理解を深めると同時にこれらの試験をこの順番で受けてきました。しかし、よくよく考えれば公認会計士(CPA)が最も関連の深い資格であるはずです。内部統制関連の書籍の多くが公認会計士による執筆であることから、これは明らかです。なぜこの資格が紹介されていなかったのか不思議です。

 また、ビジネス活動のグローバル化に伴い、資本市場(資金調達)もグローバル化が進んでおります。投資家の意思決定のベースとなる企業の経営成績および財務状況を表す財務諸表もグローバル化が求められ、それのベースとなる会計基準が世界で統一されようとしております(IFRS:国際財務報告基準)。現在(2011年7月)、日本でのIFRSのアドプションは当初の計画から若干延期される方向で検討が行なわれているようですが、少々長い目で見れば統一の流れは変わらないと推測され、すでにIFRS対応プロジェクトを開始している上場企業は少なくありません。しかし、IFRS対応のための新たな業務をこなせるだけの要員を、自社内で抱えているような余裕のある企業はそれほど多くはなく、一時的に外部にこのような人材を求める企業が少なくないことが予想されます。業務プロセスのシステム化に必要な会計(基準)に関する知識は以前から持っていたつもりなのですが、これらの企業からの要請に応えられるように準備し、要請企業が私からのご提供サービスをより安心して受け入れていただけるようにしておきたいと考えるに至りました。

 最初の動機が学習開始時のものであり、2番目の動機が学習再開時のものです。動機はモチベーション維持にとても重要な役割を果たします。私は以上の2つが動機となって、国際会計基準検定(IFRS Certificate、英国のICAEW提供)を受験し、引き続き米国公認会計士(USCPA)の受験をいたしました。

学習開始時の関連知識・経験レベル

FAR
 20年以上前に大学で利用するような専門書を使って、会計学をかなり本格的に学習したことがあります。
 私は2004年にITプロフェッショナルとして独立しましたが、独立前に簿記を独学し、日商簿記2級を受験したことがあります。この受験はあと数点というところで不合格となりましたが、独立後の自分の会社の会計記録には十分と判断し、合格を目指しませんでした。
 独立後、簿記は「弥生会計」を導入してワイフに任せておりますが、自分でも仕訳はできました。決算や法人税計算等も税理士の力を借りずに、ワイフと二人で処理しております。ちなみにワイフは日商簿記2級に合格しております。

AUD
 会計監査ではありませんが、情報処理技術者試験のシステム監査技術者、公認システム監査人(CSA)、公認情報システム監査人(CISA)の資格を持っております。また、公認内部監査人(CIA)や公認不正検査士(CFE)の資格も保有しております。
 IT全般統制、IT業務処理統制の分野ですが、上場会社のご支援として内部統制の構築・評価の仕事をしております。また、監査法人の監査チームの一員として、財務諸表監査および内部統制監査の一環としてのシステム監査の仕事もしております。

REG
 この科目についても、20年以上前に基本六法(憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法)に関して、かなり本格的に学習したことがあります。
 FARのところで記述しましたが、独立後の法人税や個人所得税の確定申告を、税理士に任さずに自らしております。米国の税法とは違うものの、税法の本当に基礎的な部分ですが、理解はしておりました。また、独立後に受注した仕事の契約書を自ら作成し、客先と内容を協議するようなこともあります。

BEC
 ITプロフェッショナルとして独立しましたので、システム分野の知識は十分であると考えております。

英語
 1991年に英検準1級に合格しておりました。また学習開始後ですが、2008年5月の時点でTOEICスコアが870でした。

受験指導機関(資格予備校)

 学習を始めるにあたり、独学では無理もしくは長期間を要すると判断し、受験指導機関に支援を仰ぐことにしました。また私は大学の工学部出身ですので、会計単位やビジネス単位をほとんど取っていないと理解していました。従って、単位取得という点からも受験指導機関を利用せざるを得ませんでした。

 受験指導機関候補として3校を選び、無料説明会に参加しましたが、1校は講師の個性が強く、馴染めそうになかったので辞退しました。残り2校には私自身の覚悟を明確にするために、「入学者総数に対する全科目合格者数の割合を教えてほしい」と質問したのですが、誠実と思われるご回答をいただけたアビタス(当時は「U.S.エデュケーション・ネットワーク」)にお世話になることにしました。

 アビタスではまず、「英文会計入門(通学コース)」で学び、その後「米国公認会計士(通信コース)」で学習を進めました。英文会計はまだしも、本コースの「通学コース」で学習が遅れ始めると、やる気を失うのではないかと懸念し、自分のペースで学習できる「通信コース」を選択しました。しかし、今から考えると、途中で脱落する可能性は高いものの、「通学コース」を受講し、覚悟を決めて必死で遅れずについていく努力をした方が、合格は間違いなく早かったと思います。

利用した学習教材

 アビタスから送付されてきた講義DVD、テキスト、MC問題(4択問題)、シミュレーション問題およびその後にアビタスから入手した補足資料以外に使った学習教材はありません。受験指導機関の教材だけでは不安で、米国製の英文教材を手にされる方も少なくないようですが、私は全く手を出しませんでした。

 教材はダンボールで送付されましたが、その膨大な量に当初絶望してしまいました。これから始まるストイックな生活にどのくらいの期間耐えられるか、不安になったことを覚えております。ある科目を学習しているときは、他の科目の教材を眼の触れないところにしまって、学習量の膨大さを感じないようにしておりました。受験が終わって、教材を1か所にまとめたのですが、改めてその膨大な量に驚き、コツコツと消化していった積み重ねが、これほどになったのだと感慨深いものがありました。

 アビタスの教材だけで満点を狙うのは無理だと感じます。本試験では教材でほとんど触れられていない論点も出題されるからです。しかし、満点を狙える教材は現実的でない分量になるのではないでしょうか。アビタスの教材は合格を狙うに適切な量および内容の教材だったと、受験が終わった今は高く評価しております。

学習の足跡(悪い事例です)

 私はUSCPA資格取得のための学習を開始してから、全科目合格を果たすまでに足掛け5年を費やしております。私は大学の工学部出身ですので、学歴評価機関(FACS)の評価では、会計単位、ビジネス単位とも、全く取得していないという評価でした。そのためアビタスの提携校であるカリフォルニア州立大学の単位を取得して、受験資格(グアム準州出願)を満たしております。この単位取得の時期を見れば学習経過が一目でわかります。これを次の表にまとめてみました。



 2008年9月から10ヶ月間、学習が中断しておりますが、この頃インターネット関連会社を長期でご支援する仕事があり、インターネットビジネスに興味を覚えて、そちらに時間を費やしておりました。しかし、中断の最大の理由は「自分の精神的弱さ」であったと思います。学習中断の理由は、仕事の関係、家庭の事情、人生(キャリア)の進路変更等が考えられますが、最大の理由はやはり「精神的な弱さ」ではないかと感じます。

 一旦挫折しかけた私を救ってくれたのは、アビタスから2009年5月頃に受け取った「単位認定試験チケットの有効期限切れ」に関する警告連絡であり、これに追い打ちをかけたのが「2011年から開始する新試験制度」に関する情報でした。この頃、「内部統制報告制度」対応の次に上場企業が直面する「国際会計基準」対応で、ご支援の仕事が増えるのではないかという期待も手伝い、そのための事前準備にしようと2010年中の合格を目指し、俄然やる気を出して学習を再開しました。

 足掛け5年ともなると、様々な弊害が出てきますので、USCPA資格取得を目指す皆さんはこのようなことは決してやってはいけません。具体的にどのような弊害が出たか、リストしておきます。

 ・以前の学習の記憶が不正確になり、学習再開時に結局最初からやり直しになる
 ・会計基準や監査基準が変更され、補足資料で補わなければならなくなる
 ・テキストが更新され、新しい講義を視聴するためには新しいものが必要になる
 ・受講開始して2年経過すると、Webプラクティスを無料で利用できなくなる
 ・単位認定チケットを4枚失効させてしまった

 特にテキストを新しいものに変更するのには躊躇を覚えます。それまでテキストに記述した自分の貴重な書き込みを失うからです。結局、私は少々不便な思いをしながらも、旧バージョンのテキストと補足資料で乗り切りました。

 学習科目の順番もアビタスご推薦のものとは異なり、大変変則的です。過去に法律を学習したことがあり、法律分野がとっつきやすそうであったこと、学習開始当時、内部統制の仕事をしており、監査論を先に学習したかったこと、会計学も同様に学習経験があったので後回しにしても良いと考えたことがその理由です。最初の受験科目をFARとBECに決めていましたので、その学習を受験直前に持っていこうという考えもありました。しかし、たとえば最近のAUDの問題はFARの問題と見間違いそうな出題がなされることがありますので、私のような特殊事情がない限り、受験指導機関ご推奨の順番で学習されるのが得策と感じます。

 2009年12月頃、アビタスの「2011年から開始する新試験制度」に関する説明会に出席し、そこでいただいた資料に「2010年2月末までに必要単位を揃えて受験申請すれば、7-8月のテストウィンドウと10-11月のテストウィンドウで2科目ずつ受験が可能」と書かれておりました。しかし、IFRS(国際会計基準)の学習を間に挟んだがゆえに私はこれに間に合わず、3月末にようやく受験要件を満足させることができました。この遅れはその後の受験予約の自由度に影を落とすことになります。

 単位認定試験はMC問題の答えを覚えてしまえば簡単に合格できます。取得単位の出願州への連絡は、1ヵ月分をまとめてバッチ処理されますので、1ヵ月遅れの2010年3月末までに、何が何でも単位取得を終えたかった私は、時間節約のためBEC1、BEC2、REG2の講義(DVD)を視聴しませんでした。最後に単位取得したREG2は3月31日の午前中であり、午後にアビタスに出向いて「Transcript Request」の申請を行なったことを覚えております。このBEC1、BEC2、REG2に該当する講義DVDは、単位取得後に視聴するという、順序が逆の学習をしております。

 「Transcript Request」申請の際、アビタスの女性スタッフから「覚悟を決めて4科目同時受験申請しなさい」と尻をたたかれ、その通りにしたのですが、これはこれで学習に気合が入ったので良かったと思います。AUDとFARは試験時間が長いせいか、REGとBECに比べて受験予約が取り辛いのですが、受験申請がアビタス推奨プランより1ヵ月遅れたうえに、受験手続でトラブルに遭い、時間を浪費してしまいました(トラブルの内容については「手続・受験編」に詳しく書いております)。ようやく受験予約できるようになったときには、7-8月のテストウィンドウの後半月の8月はすでに予約で埋まっており、当初受験する予定であったFARをREGに変更して、7月に予約せざるを得なくなりました。結局、この時のREGは準備が間に合わず、受験はしたものの、みじめな結果に終わりました。なお、受験科目の順番をフレキシブルに入れ替えられたのは、4科目同時受験申請していたおかげでした。

学習方法(フェーズド・アプローチ)

フェーズ-1:基本コンセプトの理解
 主たる教材:講義DVD、テキスト
 従たる教材:MC問題(シリアル)

 このフェーズではアビタスの言う通りに、講義DVDを視聴し、テキストの該当部分を読んで復習、同様にMC問題の該当問題を解いていきました。前述のとおり、私は受験勉強を10カ月中断してしまいましたので、学習再開時に全ての科目を最初から勉強し直しましたが、再開までに講義DVDをすでに見ていたものだけは、DVD視聴を割愛しました。

 DVDを全部まとめて視聴してからMC問題を解こうとすると失敗すると思います。MC問題を解くと、講義やテキストでは「こんなことを説明していたのか」、「具体的にはこう考えるのか」と理解が深まることがしばしばあったからです。従いまして、テキストを読んだ直後に該当するMC問題を解くのが、最も効果的と思います。MC問題はテキストを読む切り口(視点)や重要個所も教えてくれました。アビタスでも、最初はMC問題を教科書として使うように説明しておりましたので、分からない問題に時間をかけるのは得策ではありません。1分間考えても分からなければ、迷うことなく解答をさっさと読みましょう。私は自力で解こうとして10分間以上考えてしまうこともしばしばでしたが、特に通学コースを選択した受験生は、このフェーズは大変忙しいので、時間を有効に使うことをお薦めします。

 私はどの科目もある程度のベースとなる基礎知識を少しは持っておりましたので、この最初のフェーズでもMC問題がさっぱりわからないということはなく、結構解いていくことができました。このフェーズでは解き終わったMC問題に、正解であれば「○」、不正解であれば「×」を付けておりましたが、その後このマークは「○」、「△」、「×」の3段階に変更致しました。

   ○:正解以外の3つの選択肢を理由を挙げて自信を持って除外できた問題
   △:正解できたが、自信が持てなかった問題
   ×:不正解であった問題

 不正解の問題の裏面には、その時の誤った選択肢と選択理由も書いておりました。MC問題の中には何度も不正解になるものがありましたが、同じ選択肢で間違えている問題があり、これは誤解が原因で自分の理解を修正できていないことがよくわかりました。また、様々な選択肢で不正解になっている問題は、そもそもその論点の理解ができていないことも分かりました。

 アビタスはランダム出題も可能なWEBプラクティスと称するオンラインでのMC問題を提供しております。本番の環境に慣れるという意味で価値ある教材ですが、正解・不正解の記録を残せるものの、不正解の回数や選択肢を残せません。PCの前に座らなければ利用できませんので、通勤時間等のコマ切れの時間帯での学習もできません。WEBプラクティスを当初はよく利用しておりましたが、本番の雰囲気を掴んだ後は、メモ書きできる紙のMC問題を主に利用しておりました。MC問題を切り離さずに厚い本のまま利用されている方を見かけましたが、使い辛そうですし、切り離さなければ後に述べるフェーズ-3でランダムに並べ替えられません。ランダムの代わりに、10問飛びで解いていく方法も紹介されておりましたが、私は切り離してカードとして利用する方をお薦めします。

 なお、アビタスの教材の中には「論点カード」というものがありますが、全学習期間を通じて、私はほとんど使うことがありませんでした。使うとすれば、次に述べるフェーズ-2で使い、暗記すべき部分を明確にするために、利用することになるのだと思います。

 通学コースで学んでいる方はこのフェーズは大変厳しいものだと思います。アビタスではこのフェーズが9カ月続きますので、挫折してしまう方のほとんどはこのフェーズではないかと思います。

フェーズ-2:論点学習
 主たる教材:MC問題(シリアル)、シミュレーション問題
 従たる教材:テキスト

 このフェーズになりますと、全科目の一通りの学習が済んでおりますので、気分的には大分楽になりましたが、まだまだストイックな生活が続きます。私がこのフェーズに入ったのは、最初の2科目を受験した2010年7月の約2か月前の5月です。このフェーズでは受験を意識し、直近で予定している受験科目の復習ということになりますが、特にFARとAUDでは、フェーズ-1で学習したことをかなり忘れてしまっていることに気付きます。

 フェーズ-1の学習のペースメーカーは講義DVDとテキストでしたが、フェーズ-2のペースメーカーはMC問題です。このフェーズではテキストを最初から読んでいくのではなく、MC問題を最初から解いていき、間違った問題のテキスト該当部分を精読するという方法を私は取りました。始めてすぐに気付きましたが、「○」のついている(要するにフェーズ-1で正解できた)MC問題が、「×」ということになってしまうことが少なくないのです。テキストを読んだ直後には記憶が残っていて正解できても、暫くすると忘れてしまいます。いかにして記憶を定着させるかが重要であることが分かりました。

 講義視聴の際に、講師が教えてくれた暗記すべきポイントをテキストにメモ書きしておりましたので、テキスト精読の際はこの暗記作業も積極的に行ないました。「理解」が第一で「暗記」は二の次と考える方もいらっしゃいますが、「暗記」は「理解」を深化させ、「理解」は「暗記」を容易にする、学習における車の両輪のようなものだと私は思います。暗記作業は教材であるMC問題の類題が出題された際に、大きな力になります。

 暗記作業においては、いろいろな工夫をいたしました。私にとって最も良い暗記方法は、思考順序に従って暗記項目を並び替えて行なう方法です。演繹的な思考順序でも、帰納的な思考順序でもかまいません。自分の思考順序はかなり安定しておりますので、その順番で暗記項目を記憶し、芋づる式に思い出していきます。この方法が取れない場合、人は4~5項目程度でしたら比較的容易に暗記できますので、暗記項目を何らかの切り口で4~5つのグループにし、さらにその中に4~5つの程度の項目を属させるように階層化して暗記しました。この方法も取り辛い場合は、暗記項目キーワードの頭文字を使って新たな英単語を作ったり、語呂合わせを考えて覚えるようなこともしました。また、なかなか覚えられないところについては、連想記憶術を一部使ったところがあります(「連想記憶術」についてはインターネット検索で調べてみてください)。暗記は日本語ではなく、英語(単語)で行なっております。

 その日の学習の最後には、その日解いたMC問題の中で不正解であった問題をもう一度解いてみて、正解できることを確認していました。これは理解及び記憶の定着に大いに役立ったと感じます。この時はMC問題に「○」のマークは付けません。

 一つの科目のMC問題が一通り終了した段階で、直近で不正解であったMC問題だけをまとめて解きました。1日の学習の最後に間違えた問題を再度解いたり、間違った問題をまとめて解くことにより、苦手な分野の学習により多くの時間をかけていたわけです。シミュレーション問題もこの段階で解き始めました。シミュレーション問題はMC問題より難易度が上がるというより、MC問題より確実な知識が求められるという印象でした。シミュレーション問題はあまり後回しにせず、早めに始めた方がテキストの内容のより深い理解に役立つと感じます。

 リサーチ問題は実務的には重要と思いますが、正解に至るのに時間がかかる割には配点が低いようですので、あまり重視しませんでした(アビタスの指導も同様です)。該当するパラグラフを見つけられないことも少なくありませんので、「Advanced Search」の使い方だけ覚えておけばよいと思います。問題文に出てくるキーワードばかりでなく、自分の知識を総動員し、一緒に記述されているだろうキーワードを含めて検索すると、該当パラグラフにたどり着く可能性が高まります。検索結果として複数の該当箇所が表示されますが、たとえばAUDであれば、AU、AT、ARで始まる基準に正解が含まれていることが多いということも、探しだすヒントになります。

 最初の受験1ヵ月前の時点でアビタスの模擬テスト(REG)を受けました。2010年のBECはMC問題のみ、他の3科目はMC問題・シミュレーション問題・リサーチ問題・WC問題(Written Communication)で構成されておりましたので、REGだけ模擬試験を受ければ十分と判断したものです。受けた模擬試験はこの1回だけでした。ちなみにこのREGの模擬試験のスコアは、42点という情けない結果でした。現時点で初めて受験するのであれば、2011年からの試験制度変更で、出題内容が変わりましたので、記述問題のあるBECと他の3科目のうちから1科目選択して、受けてみると思います。

 グアムへの受験渡航3日前位からは、MC問題を次の3種類に分類し、限られた時間の中で、特に①を見直して全問解けるようにし、②は拾い読み程度に解いてみました。③は全く手を付けませんでした。

  ① 直近で「×」「△」が付いたMC問題
  ② 過去に複数回「×」「△」が付いたMC問題
  ③ 直近で「○」が連続しているMC問題

 シミュレーション問題についても、正解できなかった問題には「×」を付けておきましたので、その部分を中心に復習し、最後にグアムのホテルで暗記項目を見直して試験に臨みました。

 FAR、BEC、AUDの1回目の試験は、このフェーズの学習が終了した段階でグアムで受験しました。REGはこのフェーズのMC問題を4分の3ほどまで解いたところで時間切れとなり、シミュレーション問題には手つかずのままで、受験だけはしたという感じです。受験1週間前には、REGの学習が間に合わないことを悟り、REGの学習をやめて、暫く取り組んでいなかったBECの合格可能性を高めるため、BECの復習に専念しました。

 このフェーズ途中もしくは終了時点では、勉強そのものがまだ不十分という感覚を持っておりましたし、受験料やグアム渡航費用を考えますとかなりの出費となりますので、4科目とも2010年中の合格目標というタイムリミットがなければ、この段階で受験することはなかったと思います。

フェーズ-3:全体像と部分間の関係理解
 主たる教材:テキスト、MC問題(ランダム)、シミュレーション問題
 従たる教材:テキストの目次

 フェーズ-2までの学習で、論点の理解は進みましたが、その科目の全体像および各部分間の関係の理解がまだ十分でないように感じておりました。そこで、MS-Wordのアウトライン機能を使ってテキストの表題(目次)を打ち込み、アウトライン表示のレベルを変えて、全体像の理解を深めました。私の使ったアビタスのテキストはVer.3であり、このテキストの表題は文章になっているものが多く、目次として使い辛かったので、自分でその節・章の内容から表題を考え、それで目次を作っております。表題の前後やレベルも自分の納得のいくように変更してしまいました。作成した目次はテキストについている目次よりもはるかに細かいものですが、アウトライン機能のおかげで、自由に折畳み・伸展できますので、全体像の理解が大変進みました。

 アウトライン機能を使って表題を打ち込んだ後、MS-Wordの目次自動作成機能を使って、表示レベルを変えた数種類の目次を作成・印刷し、これを机の傍らにおいて参照しつつ、テキストを最初から精読していきました。ここでも暗記すべきところの暗記作業に励みました。フェーズ-3の学習をした科目は、第1回目の受験で不合格となったREGとAUDですが、不合格のスコアリリースには分野別のスコア情報が提供されますので、苦手分野により多くの時間を割くように、テキストの精読と暗記作業を進めました。特に苦手と考えられる部分は、講義DVDもしくはアビタスのオンライン講義を再視聴したところがあります。

 MC問題はランダムに並べ替えて解いていき、間違った問題のテキスト該当部分を読み返すという作業を、上記の頭からのテキスト精読とは別に繰り返しました。ランダムに並べ替えたMC問題を解く際は、問題の表題部分を見ないようにして、その問題がテキストのどの部分に該当するのかを考えながら解きましたが、これは大変有意義で、その科目全体を絨毯爆撃しているような感覚になりました。テキストの目次作成とMC問題のランダム学習の際のテキスト該当部分を見極める作業は、全体像と各部分間の関係の理解にとても役立ったと感じております。このフェーズでも、その日の学習の最後には、その日解いたMC問題の中で不正解であった問題をもう一度解いてみて、正解できることを確認していました。ランダムに並べ替えたMC問題全部を解いた後、フェーズ-2で行なった「直近で間違えたMC問題をまとめて解くこと」を、このフェーズでも行ないました。

 シミュレーション問題は、2011年から問題文が短くなったTBS問題(Task Based Simulation)に変更になりましたので、アビタスの新しいWebプラクティスを購入し、全ての問題を2回解いてみました。2010年までの試験に対応したシミュレーション問題集(総合問題集)は、試験制度変更により使えなくなったということは決してありません。2011年からの試験にも十分に有効であると思います。

 ここまでの学習が終了した段階で、1回目に不合格となったREGとAUDの2回目の受験を致しました。受験渡航数日前からは「フェーズ-2の渡航3日前からの学習」と同様の学習を行ない、これに加え「③直近で「○」が連続しているMC問題」も回答スピードを上げるために、裏の解説を読まずに(時間節約のため)1日で全て解いてみました。2010年中の合格目標というタイムリミットがなかったならば、この段階で4科目の第1回目の受験をしていただろうと思います。

フェーズ-4:獲得知識のアウトプット強化
 主たる教材:テキストの目次、テキスト
 従たる教材:MC問題(ランダム)、シミュレーション問題

 フェーズ-3までの学習で4科目とも合格できましたので、実際はこのフェーズの学習をしておりません。しかし、フェーズ-3までの学習で合格できなかった場合に備えて、このフェーズの学習方法も考えておりました。

 ここで述べる学習方法は論述問題に対応するためのものです。2011年からはBECのみで記述問題が出題されますが、機械採点であり、ボーダーラインの解答だけ人の目でレビューされる程度ですので、このフェーズの学習方法を取らなければ合格できない、というほど難しいものではないと思います。

 このフェーズでの学習方法は、フェーズ-3で作成した目次を暗記し、それぞれの目次に該当するテキスト部分を、テキストを見ずに自分の言葉で語れるようになるというものです。つまり、テキスト1冊をまるまる暗記してしまうものです。こういうと大変そうに聞こえますが、一字一句正確に暗記するわけではないので、理解が進めば意外と可能なのです。

 また、これまでの学習は出題される論点にフォーカスしたもので、会計基準や監査基準等の「基準」そのものに目を通すことがほとんどなかったのが気になっておりました。「基準」から離れてしまえば、机上の空論になってしまい、論点主義の悪弊が出てしまいます。そこで、このフェーズで「基準」という原点に立ち返ってみようと考えておりました。

 ご参考までにご紹介いたしました。

各学習フェーズとスコアとの関係

 学習の各フェーズと各科目の受験タイミングを上でご紹介しましたが、次の表を見ていただければ、学習フェーズと試験結果(スコア)の間に明瞭な相関が認められます。2回目の受験は必然的に学習時間が多くなりますので、スコアが伸びるのは当然と言われれば返す言葉がないのですが、早期合格を目指している方には、参考にしていただけると思います。



 この表から分かることは、フェーズ-2の学習「途中」での合格は無理ですが、「完了」して試験に臨むと、合格のボーダーライン上に達することが分かります。
フェーズ-3を「完了」して受験すれば、少し余裕をもって合格できることも分かります。

 実際に確認したわけではないのですが、フェーズ-2完了後およびフェーズ-3完了後の受験直前のアビタスMC問題正答率は、ともに90%を超えて同程度だったのではないかと思います。フェーズ-2完了後とフェーズ-3完了後の違いは、科目全体の理解度の深さです。本試験ではアビタスの練習問題にはなかったような問題も出題されますが、そのような問題への対応力において、理解度の深さが顕在化するのだろうと感じます。

 皆さんの受験のタイミングを決める参考にしていただけたらと思います。

その他

モチベーションの維持
 2010年9月からは、アビタスの自習室を積極的に利用させていただきました。特に休日は真剣に学習に取り組んでいる受験生が多くおりますので、良い刺激をもらえます。それまでは職場への移動時間や昼休み、休日の自宅で学習しておりましたが、特に自宅の場合、目の前のPCでインターネットで遊んでしまうことも多く、学習するほか何もできない状況に自分の身をおいた方がよいと考えました。自習室にはおにぎりやサンドイッチを持ち込み、昼休みもなくそれを食べながら、学習を続けました。仕事や用事が入っていないときは、平日でも自習室を利用させていただきました。平日は5時を過ぎると、会社帰りや学校帰りの受験生が自習室に入ってきて、疲れた体に鞭打って、熱心に勉強する方も少なくありません。自習室をまだ利用されたことがない受験生は、一度来てみることを強くお薦めします。

 合格後の自分を想像するのもモチベーションの維持に効果的です。「資格を取ったら、展望が開かれる」といった消極的なものではなく、「資格を取ったら、こういう戦略が可能になる」といった積極的な考えを持っておりました。

学習中の睡魔対策
 学習時間確保のために睡眠時間を削らなければならないことが、しばしばあります(特にフェーズ-1)。勉強中、問題を解いているときはそれほどでもありませんが、特に講義を聞いたり、テキストを読んでいる際に睡魔に襲われます。この睡魔と戦うため、粒ガムを欠かしませんでした。種類は別に「ブラック」でなくとも構いません。顎を時々動かすと、意外と睡魔は襲ってこないものです。顎を動かすことは脳の刺激にもなるということを、どこかで聞いた(読んだ)記憶もあります。

最後に

 全科目合格により、会計専門家としてのスタートラインに立たせていただきました。試験直後の自分の実力を考えると、本当にスタートラインに立っただけと自覚しております。今後ライセンス取得手続を進めようと考えておりますが、ここからはより高い品質、よりご満足いただける会計サービスを提供するために、他の会計専門家との競争が始まります。米国社会は競争社会であり、秩序だった競争によって、より良い社会を築き上げていこうという理念ですので、CPA試験に合格したからと言って、既得権益を与えてはくれません。4月21日に最後の科目の受験をした後、スコアリリースまでに2ヶ月半の時間がありました。この間、合格していることを前提に、ゴールデン・ウィーク明けまで息抜きをしながら、競争のための戦略を考えてみました。世の中の動向に合わせ、知識レベル向上のため、国際会計基準(IFRS)に関して、上記にご紹介したフェーズ-4の学習を始めましたし、実務経験を蓄積するため、従来からのIT専門家としての知識・経験も生かせる会計関連の仕事を求めて、営業活動も開始いたしました。上場企業のIFRS対応プロジェクトが立ち上がり始めておりますので、この関係の仕事に期待しております。

 会計基準と監査基準が世界で統一されつつあります。主としてこの2つの基準を使って業務を行なう公認会計士(資格)も、世界で何らかの共通化が促進されると考えるのが自然です。同じ会計基準のもとで作成された財務諸表に対し、同じ監査基準のもとで表明される監査意見が、公認会計士の国籍によって異なるということになれば、基準を統一した意味がなくなるからです。この流れの一つとして、世界各国の公認会計士資格の相互承認が進みつつあります。

 米国公認会計士協会(AICPA)は、本年(2011年)から米国以外の日本・中東でUSCPA試験の受験を可能とし、米国の資格という枠を越えて、グローバルな資格にすることに大変積極的です。従いまして、公認会計士資格の相互承認の流れの中で、USCPAは間違いなくその核(ハブ)になります。日本の公認会計士資格との相互承認も、時間の問題ではないでしょうか。最近の大学生や企業の新入社員の中には、海外留学や海外赴任を避ける人が増えているという新聞報道を覚えております。日本に閉じ籠らず、人口減少・少子高齢化により縮小が懸念されるマーケットの日本からもっと世界に目を向ける人が増えてくれば、また日本は元気になってくるのではないでしょうか。この資格を取得して世界で活躍する人材がより多く出てくることを期待しています。

 受験体験記は「学習編」、「手続・受験編」、「受験ツアー編」に分かれております。ご興味がわきましたらこれらの記事もご覧になってみてください。

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