中小企業向けPC仕様 (印刷用PDF

2004/05/31
  • 会計ソフトとパソコン
  • 前号では、利益構造の分析において自社の事業を分類し、それぞれの事業の収支を検討する必要性をご説明しました。そこでは管理会計の重要性を指摘しましたが、一念発起して簿記を勉強し、会計ソフトとパソコンを導入してみようと考えられた読者もいらっしゃるかと思います。

    会計ソフトについては要件を満足するパッケージソフトを選択するとして、パソコンはどのような仕様のものを選択すべきかを本号では考えてみます。

    結論を最初に申し上げてしまいますと、会計ソフトのような重要なアプリケーションソフトウェアを稼動させるパソコンは、一般のデスクトップパソコンやノートパソコンではなく、最近価格低下の著しい(本体だけであれば10万円を少々越える程度で購入できる)サーバと呼ばれるパソコンをデスクトップパソコンとして利用することを私は強くお勧めします。


  • 一般のパソコンとサーバの違い
  • サーバと呼ばれるハードウェアには、メインフレームと呼ばれる従来からの大型計算機、オフィスコンピュータ(オフコン)と呼ばれる中型計算機、UNIXと呼ばれる基本ソフトが動作する小型から大型までカバーする計算機、パソコンにサーバとしての要素を加味した小型から中型をカバーするPCサーバがあります。最近ではこれらのサーバと呼ばれる計算機のうちPCサーバが著しい成長を見せております。ここではサーバとしてこのPCサーバを考えることにします。

    パソコンは様々なパーツから構成されております。以下に主要なパーツについて一般のデスクトップパソコンとサーバの違いを簡単にご説明します。なお、以下の説明は話を簡単にするために、若干正確さを犠牲にしておりますことをご了承ください。

    ・ CPU(中央演算処理装置)

    CPUはパソコンの心臓部ともいえるパーツであり、パソコンの処理能力の大部分はこのパーツの性能に依存します。パソコンに利用されるCPUのメーカの代表はインテルであり、AMD等のメーカがインテル互換のCPUを製造しております。

    サーバに利用されるCPUはエントリーモデルでは一般のデスクトップPCと同じものが利用されますが(32ビットCPU)、少しグレードが上のミッドレンジ以上のサーバでは64ビットのデータを一度に扱うことの出来るCPUが利用されるようになってきました。また、サーバのエントリーモデルではCPUが1つのものが大半ですが、ミドルレンジ以上のサーバでは複数のCPUが搭載されて処理能力を増強したり、一つのCPUに障害が生じても、もう一つのCPUで動作を続行する仕組みを持つものなども存在します。

    デスクトップPCではほとんどが32ビットCPUを利用しますが、最近の動作クロック数の高い32ビットCPUは一昔前の大型計算機(メインフレーム)に匹敵もしくは凌駕するほどの処理能力を持っており、CPUに負担のかかる3DゲームやCAD(図面作成ソフト)などのアプリケーションでも処理能力に不満は出ません。ワープロや作表ソフトのような一般のオフィスアプリケーションでは過剰とも言ってよいような処理能力となっております。

    なお、ノートPCでは一般のデスクトップPCよりも処理能力を抑え、低電圧で動作するCPUを利用することにより、バッテリーによる駆動時間をかせぐ設計がなされます。

    私はCPUに関する障害と呼ぶべき現象に遭遇したことはありません。1995年ごろであったと記憶しておりますが、ある特定条件で誤った演算結果を返すという障害が発見され、インテルがリコールしてCPUを換装したことがあるくらいです。

    ・ メモリー

    メモリーはCPUが直接アクセスする半導体でできた記憶装置であり、電源を落とすとその中身は消えてなくなります。後にご説明するHDDと混同される方がおりますが、HDDはCPUが直接アクセスしませんし、電源を落としても記憶内容は保持されるところに違いがあります。メモリーにはアプリケーションプログラムがHDDから読み込まれて実行されます。また、アプリケーションが利用するデータも読み込まれ、そのデータに対して様々な処理が加えられます。

    メモリーには様々な種類がありますが、サーバとデスクトップPCで利用されるメモリーにおける大きな違いはエラーが生じた場合の対応能力です。サーバには1ビットのエラーであれば自動的に補正してしまうECCメモリーと呼ばれるものが利用されます。一方デスクトップPCではエラーの検出は出来ますが、自動的に補正できるようなメモリーは利用されません。

    メモリーに関する障害もまれです。私は一度だけECCメモリーにおけるトラブルの経験があります。このときはECCメモリーのおかげで処理は続行されておりましたが、メモリーエラーを知らせるLEDランプが点灯し、サーバベンダーがすぐに駆けつけて交換してくれました。

    ・ HDD(ハードディスクドライブ)

    HDDはガラスもしくはアルミの円盤に磁性体を塗布して回転させ、円盤上をわずかの隙間で浮かせた磁気ヘッドで情報を読み書きする装置です。HDDにはアプリケーションをインストールしたり、データを蓄積したりします。磁性体を塗布した円盤1枚あたりの記録密度は年々増加し続け、ごく最近、円盤1枚両面(プラッター)あたり100GB(ギババイト)というものが発表されました。現在市販されているHDDの主流は円盤1枚あたり60GBもしくは80GBですので、円盤の枚数によって60GBもしくは80Gの倍数のものが多いというわけです。60GBとか80GBという容量は実は膨大なものであり、動画をハンドリングしないかぎり、一人でこれを使い切るほどのデータを作り出すことは大変なことです。HDDは回転および磁気ヘッドのシークという物理的な動作を伴うものですので、パソコンのパーツのなかでは速度が遅く故障の多いデバイスです。記録密度が高いということはディスクが1回転する間に読み出せるデータ量もそれだけ多くなりますので、HDDの高速化につながります。従ってパソコン全体のパフォーマンスを確保するためには、必要以上の容量であるという理由だけで容量の小さなHDDを選択すべきではありません。プラッターあたりの容量が大きく回転速度の高い(IDE規格のHDDでは7200rpmが目安)HDDを選択しましょう。秋葉原ではIDE規格の160GBのHDD単体(ベアドライブといいます)は1万円程度で入手できるということも覚えておきましょう。

    HDDとデータをやり取りする方法には3種類あります。SCSIおよびIDEというインターフェースが従来から存在しましたが、最近これにシリアルATAという規格が加わりました。SCSIというインターフェースを利用するとCPUの負荷が軽減され、SCSI1チャンネルあたり7台もしくは15台までのHDDが接続できます。一方、IDEやシリアルATAではチャンネルあたり2台のHDDしか接続できません。通常は2チャンネル実装されておりますので、HDDは最大4台までとなります。拡張性を重視するサーバではいままでSCSIインターフェースが広く採用されてきましたが、最近の低価格のサーバにはデスクトップPCと同じIDEもしくはシリアルATAが採用されるようになってきております。IDEもしくはシリアルATAはSCSIに比較してシンプルなインターフェースですので、価格的に非常に有利です。

    サーバではまったく同じデータを2台のHDDに書き込むミラーリング、もしくは3台以上のHDDを束ねてそのうちの1台に障害が生じても稼動し続けるRAIDという冗長構成を採用するのが一般的です。これに対してデスクトップPCではこのような冗長構成は普通採用しません。

    私はHDDに関する障害を数多く経験してきました。ハードディスククラッシュという現象ですが、磁気円盤が遠心力に抗しきれずにばらばらになるということではありません。Windows等の基本ソフトが起動しなくなったり、起動するまでに異常に時間がかかったりする現象です。アプリケーションが起動できなかったり、データが読み出せないという症状になる場合もあります。HDDベンダーがいう平均故障間隔(MTBF)は数十万時間ということになっておりますが、おそらくこれは磁気円盤の軸受けの磨耗から推定したものではないかと思います。実際はこれよりもずっと早く交換しなければならなくなります。サーバは24時間365日連続稼動が一般的ですが(定期的なメンテナンスを除く)、HDDは3年間故障がなければ良質のものであったと考えておりました。私が管理していたサーバではすべて冗長構成をとっていたので、HDDトラブルにより貴重なデータを失うことは一回も経験しないで済みました。ただし、人為的なミスでデータを消去したり、上書きして痛い思いをしたことはあります。これを防ぐには地道なテープバックアップが求められます。

    ・ ビデオボード

    ビデオボードはディスプレーに描画を行うためのパーツです。ここ10年ほどはビデオボードの分野においては熾烈な競争が繰り広げられており、価格もCPU並みのものが存在します。3DゲームやCADを動かすためには高性能なビデオボードが求められますが、一般のオフィスアプリケーションを動かすだけであれば特別なものは不要です。

    サーバでは3DゲームやCADを動かすわけではありませんから、単体のビデオボードではなく、マザーボード上におまけ程度のビデオチップが実装されている場合が大半です。一方、デスクトップPCにおいては、ビジネス向けではCADソフト、一般消費者向けでは3Dゲームの利用を考慮して、性能の良いビデオチップが採用されることが多くなります。

    ビデオボードに関してはハードウェアよりもそのドライバーソフトに起因するトラブルが無視できません。従いまして、信頼性を重視するサーバでは技術的に充分枯れたドライバーソフトが入手できる一世代前の数多く出たビデオチップを採用するケースが多いようです。

    ・ ネットワークデバイス

    ネットワークに接続するためのデバイスです。ネットワークには有線・無線を含めいくつか規格が存在します。

    有線ではかつてはトークンリングという規格が存在しましたが、現在はイーサネットという規格が事実上の標準となっております。イーサネットの中でも10Mb/sec(メガビット毎秒)という速度は過去のものとなり、主流は100Mb/sec(ファーストイーサ)です。最近では1Gb/sec(1000Mb/sec:ギガビットイーサ)が一般的になってきました。規格としては10Gb/secが策定済みであり、これを実装した製品の出荷も始まっているようです。

    無線ではIEEE802.11b、802.11a、802.11gという3種類の規格が存在します。最大伝送速度はそれぞれ11Mb/sec、54Mb/sec、54Mb/secとなっており、現在は802.11bが主流ですが、今後802.11gに移行していくものと思われます。

    サーバでは100Mb/secおよび1Gb/secのイーサネットデバイスが有線LANの標準として早い段階から装備されてきました。一方、一般のデスクトップPCでも最近は1Gb/secのデバイスまで実装するようになってきており、サーバと変わりはなくなっております。しかし、ネットワークデバイスに使われるチップにはメーカにより性能差があり、サーバではより高性能なチップが採用されております。ノートPCではサーバやデスクトップPCでは採用されない無線LANを搭載するものが多くあり、最近は802.11bと802.11gの両者を搭載するものが多いようです。

    私はネットワークデバイスに関する障害にあったことはありません。比較的安定して動作するデバイスですが、最適設定のためにはそのドライバソフトも含めてある程度の知識を要するデバイスです。

    ・ マザーボード

    マザーボードはCPUやメモリーを載せる基盤です。この基板上にはHDDのところでお話したIDEやシリアルATA等の各種インターフェースや拡張ボードを追加するためのバスが装備されます。CPUを選択するとそのCPUに対応したマザーボードが必要になります。

    サーバ用のマザーボードは上述した64ビットのCPUに対応したり、複数のCPUを実装できるようになっております。バスも速度の高い設計になっていることが多く、SCSIやHDDの冗長構成を可能にするRAIDコントローラを標準で実装しているものもあります。

    私はデスクトップPCでマザーボードの障害を1回経験したことがありますが、それほど障害の多いパーツという印象はありません。

    ・ その他

    パソコンを構成するパーツにはこのほかにCD/DVD-ROMやFDD(フロッピーディスクドライブ)、テープドライブ装置等がありますが、ここでは説明を割愛します。

    パソコン本体に搭載されるパーツではないのですが、停電に備える無停電電源装置(通称UPS)は重要な構成品に挙げられます。HDDにデータを書き込んでいる最中に停電が起きますと全体のデータが読めなくなってしまうことがあります。これを防止するためにUPSの購入を検討ください。簡易なものであれば2万円程度で入手できます。なお、ノートPCはバッテリーを標準で装備しておりますので、この停電により障害が引き起こされることはありません。


  • 重要アプリケーションを動作させるPCにサーバを採用する理由
  • 上述の説明でサーバとデスクトップPCでは設計思想が異なることがご理解いただけたのではないかと思います。すなわちサーバはパフォーマンスというよりも信頼性を重視した設計になっております。デスクトップPCに障害が生じても不利益を受けるのはそれを利用していたユーザ一人ですが、サーバは数多くのユーザが同時に利用しており、サーバに障害が生じるとその影響は甚大となるので、当然の設計思想ということになります。

    私が会計ソフトなどの重要なアプリケーションを動かすハードウェアとして一般のデスクトップPCではなくサーバを推奨するのはこの信頼性を確保すべきと考えるからです。しかし、HDDが冗長構成(ハードウェアミラーリング)できる程度のエントリーモデルで充分です。CPU、メモリー、ビデオボード、ネットワークデバイス、マザーボード等に障害が生じても、長い時間をかけて投入した会計データが失われる危険性はほとんどありません。しかし、HDDがクラッシュするとこれらのデータの復元は困難となります。最近はIDE規格の安価なテープドライブがありますので、これも一緒に導入して人為的なミスに備え、地道なバックアップも実施したいものです。テープドライブの導入が困難でしたら、DVDデバイスにバックアップすることを考えましょう。

    ちなみに、弊社で利用している会計ソフトが稼動するパソコンはIDE-RAIDというHDDをミラーリングすることが出来るデバイスをマザーボード上に持つものを選択して自分で組み上げました。私は2年に1回程度、そのときの最新のパーツを使ってパソコンを組み立て、各パーツの進化とその実態をスタディすることにしております。今回は出荷開始になったばかりのプレスコットというインテルのCPUを使いましたが、放熱対策が大変厳しいことを実感しました。

    なお、利用する基本ソフト(OS)はWindows Serverである必要はなく、Windows XPで充分ですが、セキュリティを考慮してProfessional版を選択しましょう。


以 上


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